今日はプール活動の一つの成果をご紹介します。
小学校高学年男子。
知的、自閉スペクトラム。
彼は、泳ぐこと自体は大好きで、今ではクロール、平泳ぎ、背泳ぎまでバンバン泳ぎます。
でも、彼はぐるんぱのプールで学びの真っ最中。
「泳げる」ということの他に、長くプールを楽しもうと思ったら必要なスキルがたくさんあるからです。
なんといっても地域のプールで楽しもうと思ったら、他の人と折り合いをつける必要があります。
周囲の状況を見てスタートしなくては他の人と接触して、場合によっては事故、ケガにつながります。
特性故でしょう、ついつい〇で一人でプールに来て、貸し切りのように過ごしてしまう一面がありました。
僕と一緒にプールをしているという感覚、認識。
周囲に人がいるという感覚と認識。
これをどのように身に着けるか?ということをしばらく考えながら関わってきました。
「周りに人はいませんか?確認してからスタートしましょう」
こういうことを伝えることから始めました。
するとずいぶん遠くにいる人も「周りに人がいる」になってしまいます。
僕だって周りにいる人の一人ですし。
なかなかスタートできないことが続きました。
(…うん、足りない。)
「ぶつかりそうなところに人はいませんか?」と尋ねて、返事をしたらスタート、という取り組みをしてみました。
人が居ても居なくても「いません」とスタートしたさに答えてしまいます。
「ぇえ?いるじゃん!あぶなーい」と大袈裟に返して見せます。
(…うん、これだけでも足りない。そもそもぶつかるリスクを知らないと難しいよな)
そこで彼の「いません」でスタートをした先に僕が立ってみて、わずかでも接触したら「あぁ、いったー」とオーバーリアクションして見せました。
すると「あ、ごめんなさい」と直ぐに言葉が出ます。
(お、この認識はあるんだな)
「うん、こちらこそごめんね。でもぶつかると危ないよね」というこの流れを繰り返してみました。
徐々に、「周囲の確認」の精度が上がってきました。
こういうことを1年がかりで試行錯誤してきて、最近は「周りに人が居ませんか?安全だったらスタートしましょう」と僕も表現を変えて関わり合ってきました。
すると、首を大袈裟なくらいふりながら周りを確認して「いません」と言ってからスタートが切れるようになってきました。
しかも、背泳ぎのように特に後ろを気にしなくてはいけない泳ぎでも、その様子が見えるようになってきました。
(よし、ようやくここまで来た)という感じです。
次に僕が考えるのは、スタートが重なり合いそうになった時のこと。
ボウリングとかでも隣のレーンの人が投げるときにはまったりするじゃないですか?あんな感じで、重なりそうになったら待つ、譲る、譲ってもらう、ということが必要なんです。
これはかなり高度。
周りのお年寄り(ぐるんぱのことはよく知ってくれている)たちも、彼の練習に巻き込んでしまえ大作戦です(笑)
あえて、スタートしそうでしないという雰囲気を作って、周りの人から「先にどうぞ」とか「先にいい?」という言葉を引き出してきました。
そして、まずは僕が「お先にどうぞ」とか「すみません、先に失礼します」と応えて、やり取りを見せました。
徐々に本人にもそのことを言葉に出させることをしました。
この段階ではただの僕の言葉の反復です。
そして、数か月見せて、ある時「どう?先に行かせてもらう?行ってもらう?」と尋ねることを始めました。
最初は答えなかった彼が、促しを続けてきたら徐々に「先に行ってもらう」とか「先に行きまーす」という言葉を出すようになってきました。
(よーし、ようやくここまできた!!)この時点でガッツポーズです。
それが本当に今日のことですが、すっごくうれしい展開がありました。
近くを泳いでいた高齢女性が、「先にどうぞ」と譲ってくれたのですが、彼自身が僕を介さずに「あ、先にどーぞー、まだ行きません」と譲り返したんです!!
そして、手元で水をぱちゃぱちゃさせて水のしずくが跳ねるのを見て遊び始めました。
これぞ、地域での余暇活動という気がしませんか?
僕はある種の感動を覚えました。
気にかけてもらって、譲ってもらって、それを辞退して自分の意思を伝え返す。
この高齢女性の泳ぐスピードより、彼の方が泳ぐのは早くて、それを気遣って恐らく譲ってくださったのだと思いますが、「まだ行きません」とはっきり意思表示をすることで相手も気兼ねなくスタートをされていました。
今日一度のことなので、偶然なのかもしれません。
でも、一年前には想像もできない出来事が今日起こって、これだけでどんぶり3杯食べられますw
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